価格設計を検討する上で意識しておきたい3つの階層

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みなさんは、「プライシング」や「価格設計」あるいは「価格戦略」という言葉を聞いて何をイメージされますか?

  • 商品Aの値段を、競争環境(競合価格)や自社環境(在庫、製品コスト、販売数重視なのか利益重視なのか等)を踏まえて程よい価格に調整する
  • セール中の対象商品、価格を設定する
  • 単価を上げるために、単品売りではなくセット価格を設定する
  • 顧客との継続的な関係を維持(長期的な売上向上)するためにポイントカードを発行する
  • 一定売上に応じた販売店へのインセンティブを設定する 等々

「戦略」という言葉が付くと何やら中長期的なイメージがありますし、「設計」や「プライシング」というと、商品そのものの値付け的なイメージが近いのではないでしょうか。
自社の置かれている状態によってもその理解は様々かもしれません。例えば、自社の業種・業態はどのようなものか、顧客は企業(BtoB)なのか一般消費者(BtoC)なのかによっても、イメージは様々だと思います。

基本的には、自社が売上や収益の拡大に向けた「価格」を含んだ議論を行う際、解決すべき課題に応じた社内での共通認識があれば良い話ですので、その切り口は様々で良いと思います。しかし、基本的な「価格」の階層は意識しておいたほうが良いでしょう。

理由は以下の2点です。

  • 議論のポイントが明確になる
  • 取り得る選択肢の幅が広がる、学習効果が高まる

ここでは、価格設計における階層(レイヤー)を3つに分けて整理してみたいと思います。

なお、本ブログは「Pricing labo.」と、直訳すると「Pricing=値付け」というタイトルを付けていますが、本ブログで論じるプライシングの定義は、これから説明する階層全てに関する議論を含んでいるという理解で受け止めていただけると嬉しいです。

全業種・業態に共通する価格の3階層

前述のとおり、業種や業態、顧客種別等により、「価格戦略」「価格設計」「プライシング」の捉え方はそれぞれだと思います。
ただ、全ての事業者において、価格を考える際のその構造は、シンプルに以下図説の3つの階層に整理されます。

 

以下にそれぞれについて説明を加えます。

収益モデル

収益モデルは価格を考える上での最上位レイヤーで、ビジネスモデルと密接な関係があります。
提供価値の見返りとして誰から、どのような形態でお金をもらうのか、という概念を指しています。

例えば小売店における一般的な収益モデルは、顧客から商品代金を都度もらう、というシンプルなモデルです。
しかし、プロ野球球団であれば、観戦者からのチケットや物販収入に加えて、スポンサーからは年間のスポンサー収入も入ってきます。
この場合、収入源が複数になりますし、物販のような単発での売上なのか、それともスポンサー契約のような継続的な売上なのかの違いも出てきます。

収益モデルという考え方が頭にあることで、自社の事業そのものの収益構造が整理できると共に、自社のビジネスモデルを検討していくための議題も明確になります。
例えば、小売業における収益増大の論点は、一般的には「単価向上」と「客数増大」の2点で論じられることが多いと思います。この2点を重要論点として、マーケティング施策を検討していく流れが一般的です。確かにその通りですが、これを収益モデルという最上位レイヤーの視点で考えると、サブスクリプションモデルへの転換や、販売ではなくレンタルというモデル等、ビジネス全体を俯瞰した新たな視点の広がりが出てきます。

なお、収益モデルと近しい概念としてよく使われる言葉に、ビジネスモデルが挙げられます。
ビジネスモデルを整理するフレームワークとして最近よく使われる「ビジネスモデルキャンバス」では、ビジネスモデルを「提供価値」「顧客種別」「販路」「顧客との関係」「自社資源」「主要活動」「主要なパートナー」「コスト構造」「収益の流れ」の9つのブロックで整理しています。ビジネスモデルは収益モデルを内包している概念で、ビジネスモデルキャンバスは自社の事業モデル自体を整理すのに非常に有用ですので興味のある方はご覧になってください。

プラン

次にプランです。
最上位レイヤーの収益モデルは、ビジネスモデルに組み込まれる要素でもあり、そう頻繁には変更するものではありません。しかしプランでは、やや自由度が高まります。選択肢の幅が広く、プライシングの面白みが詰まったレイヤーともいえます。

例えば、保険サービスや携帯電話サービスが提供する価値は、「保険金の受け取りによる安心感」や「どこでも、誰とでも、コミュニケーションが取れる、情報が得られる」のようなものが挙げられますが、保険では受取り保険金の額に応じて、携帯電話では月間の通信量に応じて、と、顧客の要望に応じた様々なプランを用意しています。
ファーストフード店が単品価格以外に、ドリンクやポテトを付けたセット価格を提供しているのもプランですし、食べ放題もプラン、旅行会社が様々な行程を組んで提供しているサービスもプランです。

このプラン設計は、自社の収益を大きく左右させる力を持っています。
例えば、お寿司屋さんでは、松・竹・梅の3つのプランのうち、最も選択されないのは梅(最も安いプラン)です。
しかし、選択肢が竹・梅の2つのみであれば、梅もそれなりに多く選択されます。
つまりこのケースでは3つの選択肢があったほうが結果的に収益は向上する訳ですが、これは提供するそのものの価値による力ではなく、プラン設計による力によるものです。

モノやサービスを販売していると、つい単品の価値や価格にのみ目が行きがちですが、プランという視点を加えることで、プライシングの幅が大きく広がるといえます。

値付け

値付けは、最下位レイヤーに位置付けられます。
単品の商品やサービス、あるいは設定したプランをいくらにするか、という最終的な値段付けの部分です。
多くの場合、値付けはコストに対していくらの利益を上乗せするか、あるいは競合他社の同等の商品やプランに対して、どう対抗していくのかが論点になります。しかし本来的な値付けの考え方は「顧客にとってその商品やサービスの価値はいくらなのか?」となります。

例えば、フェラーリの販売価格を、コストに利益を上乗せして設定する手法で設計すると、おそらくもっと安く設定することは可能でしょう。しかしこの場合、短期的には販売台数・売上を上げることはできても、長期的に利益を上げていくことは難しくなるかもしれません。フェラーリを購入する高所得者層は、値段が下がり、多くの人が気軽に手にすることができるフェラーリには興味を示さなくなるでしょう。高所得者のステータスであるフェラーリとしては、むしろ高いほうが良いのです。

もう少し身近な例として、私が経営支援で関わった和菓子屋のお菓子の価格設定を少し紹介します。
この事業者は自社で和菓子を製造販売、2店舗を運営している地場に密着した老舗のお菓子屋さんです。この和菓子屋さんの基本的な価格設計のルールは製造原価に対して一定の利益率を上乗せして値付けをするという一般的な手法でした。
検討プロセスは割愛しますが、結果的に360円の商品を390円に変更することで販売数量の変動なしに1個あたり30円の利益向上に結びつきました。店主は当初この値上げに対して消極的でした。原価に対して適正な利益を上乗せしている価格に対してさらに上乗せすることは、「儲け過ぎ」ですし、「顧客対して申し訳ない」という気持ちもあったのでしょう。しかし結果的に顧客にとっては、360円でも390円でも購入意欲は変わりませんでした。

ここで重要なことは、「主観でなく客観で考える」ということです。

原価に関しては客観的事実ですが、「値上げすると売れないのではないか、顧客に申し訳ないのではないか」については憶測に過ぎません。

客観的な視点に立つには、例えばこの場合だと「価格弾力性」、「閾値」、「端数価格」等の基本的な価格設計の考え方を知っていることである程度は克服できます。

いずれにせよプランや値付けは、事業の収益を大きく左右するレイヤーですので、自社の提供価値を見極めたうえで、自信を持った設計をすることが重要です。

その他:誰に対してどう訴求していくのか

ここまで説明してきた「収益モデル」「プラン」「値付け」のうち、特に「プラン」「値付け」を検討する際の前提やアウトプットの要素に「誰にどのように訴求するか」が挙げられます。図説の点線部分がそれにあたります。

最近では、Amazonなどのネット通販を通じてどこでも買い物が可能になりました。
電化製品などのいわゆる型番商品では、ネット上で簡単に価格比較が出来るようになったこともあり、事業者サイドとしては、競合他社との比較を前提とした競争的な価格設計(多くは安く販売)を余儀なくされています。
しかし、「誰に」を「すぐに商品が欲しい顧客」と定義すれば、お急ぎ便に対応する運用を行う代わりに、その分の価値を商品価格に上乗せすることも可能となります。商品ページの訴求文言としては、「明日中にお届け可能!」等のひとことを入れることでターゲットなる顧客が自社を選択する可能性は高まります。

この場合、前提は「すぐに商品が欲しい人」ですし、訴求方法は「明日中にお届け可能!」となります。

このように、「誰に」対する商品・サービスなのかを定義することは、提供するプランや値付けを考える上での前提にもなり、訴求方法にも関係することから、価格の3階層と密接に結びついているといえます。

まとめ

  • 価格の階層は、「収益モデル」「プラン」「値付け」で整理される
  • 「収益モデル」が最上位レイヤー。誰からどのような形態のお金をもらうのかを指している、ビジネスモデルの一部分
  • 収益モデルを知ることは自社の事業モデルを明確にすると共に、プランや値付け以外の、より俯瞰的な視点で事業を考えることにつながる
  • プランは、選択の幅が広く、設計次第で自社の収益を大きく左右する力をもっている。
  • 値付けの本来的考え方は「顧客にとってその商品やサービスの価値はいくらなのか?」に基づく
  • 価格の3階層を考えるうえで重要な視点は「誰にどのように訴求するか」である
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