定期券型プライシング3つのメリット

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タクシーも定期券 免許返納の高齢者の足に 国交省検討
出典:朝日新聞2017年8月30日

国交省の発表によると、タクシーにも、電車やバスの「定期券」のような制度を導入する方針を決めたようです。2018年に実証実験、19年度以降に実用化を目指しているとのこと。

記事によると、運転免許を返納した高齢者の足としての活用や、冷え込んでいるタクシーの需要喚起を図ることが狙いのようです。

主なサービス仕様として挙げられているのは、「利用地域」「期間」「時間帯等」を限定。一定の制約条件の基、定額料金で何度でも利用可能な設計にするとのこと。

決められた一定区間の価格を調整すればよいバスや電車と比べると、より細やかな価格設計が必要そうです。

まさに価格設計含むサービス仕様設計が重要な鍵を握っている案件ですね。
ここではプライシングの観点から、定期券の特徴を考察してみたいと思います。

基本仕様を整理することで見える3つの特徴

定期券は、「定価が存在する商品」を「一定期間」「定額で利用し放題」で使えるプランです。
そのように考えると、遊園地などの年間パスポートも同じ類型に整理できます。
定期券型プランが事業者にもたらす意味とはいったい何なのでしょうか。
ここでは、これら一定期間使い放題の料金プランを提供することによる事業者側のメリットを、以下の3点に整理します。

  1. 将来売上が先に回収できる
  2. 顧客をロックオンできる
  3. 追加売上が期待できる

1.将来売上が先に回収できる

私の知る限り、世の中の全ての定期券や年間パスポートといった類の商品は一定期間分の代金を先に徴収しています。
事業を運営している当事者であれば、すぐに気付く点ですが、これは、キャッシュフローの観点から事業者にとって非常に魅力的です。

2.顧客をロックオンできる

顧客としては代金を先に支払うことになる訳ですが、これは「顧客は一定期間サービス利用をコミットする」という言葉に置き換えることができます。特に、自社と同様の商品/サービスを提供する競合他社が存在する場合、一定の時間軸で顧客を定着させることの効果は、競争上非常に大きいといえます。

3.追加売上が期待できる

仮にサービス提供事業者がオプションのサービスを用意している場合、事業者側に追加売上を発生させることが可能となります。

例えば、美容室などが、一定のルールに基づき、カットサービスの定期券を顧客に発行したとしましょう。
仮に、今日カットしたなら、次回の来店は最低3週間空けることをルールとし、1年間の定期券を発行したこととします。

顧客は一定期間分の料金をまとめて先に支払っている訳ですから、来店都度、カットに対する支払いの必要はありません。つまり、来店都度のカットサービスに対する支払額は0円です。そこに、美容室側から4,000円のカラーの提案をしたとしましょう。この美容室の標準的なカットサービスは5,500円です。定期券なしであればカットとカラーで9,500円の支払いとなりますが、定期券を保有している顧客はカラー代金の4,000円のみの支出となります。

9,500円であれば大きな出費ですが、4,000円であれば通常のカット代金よりも支払額は安くなります。
顧客は定期券購入の際に、あらかじめまとまった金額を支払っているので、実質は4,000円以上の出費が発生している訳ですが、定期券の代金は以前にまとめて支払っています。これをサンクコスト(埋没コスト)といいますが、その表現通り顧客の頭の中からは以前にまとめて支払ったコストの心理的負担はほぼ消滅しています。

このことから、追加コストに対する支払意欲は、都度カット料金をもらった上で追加コストを徴収するよりも大幅に高まるのです。

以上のことから、定期券をはじめとした一定期間使い放題プランは、一般的な「値引き」とは根本的にその目的や構造が異なる、基本的には筋のよいプランともいえます。

ルール付けがキモに

ただし、不用意な定期券の発行は、元々存在していたヘビーユーザーのLTVを下げるばかりか、全体的な売上をも落しかねません。冒頭で少し触れたタクシー定期券やエステ業等、人員集約的な事業の場合は、ルール付けが非常に重要になります。

一方、テーマパーク等、施設そのものが主要コスト(固定費率が高い)の事業の場合、ルール付けはさほど難しくはありません。一人の顧客に年間10回来場されようが100回来場されようが、施設側のコストが変わらないからです。むしろ、来場都度、施設内で追加料金を落としていくことが想定されるなら、何度でも来場してもらって結構なのです。友達や家族を連れてくることもあるでしょう。その場合は丸々売上が追加されます。

まとめ

これまで簡単に定期券型プライシングの特徴を簡単に説明してきましたが、基本的にここで述べた特徴のとおり、定期券型プライシングは事業者にとってメリットのある手法であるといえますし、ルール設定次第では多くの業種で対応することも可能です。

業種別の定期券型プライシングに関しては、またの機会で説明していきたいと思います。

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